日本は少子高齢化による人口減少が叫ばれている中、ここ数年ではアパート等の貸家系の着工戸数が増加傾向にあります。
着工戸数が増えているということは、実際のところ儲かるのでしょうか。
また、アパート経営を始める際にかかる費用やリスクについても気になるところです。
そこで今回はアパート経営は実際に儲かるのか?始めるにあたってはどのような費用やリスク等がかかるのかなど、元不動産会社の営業マンならではの視点で解説していきます。
アパート経営者はなぜ増えている?
ここ数年では貸家系の着工戸数が増加傾向にあります。
国土交通省が公表している住宅経済関連データによる新設住宅着工戸数の推移(総戸数、持家系・借家系別)では、平成29年度では若干減少しているものの、ここ5年で見ると大きく増加しています。
この背景には「相続税法の改正」により、相続税を払う可能性がある人たちが相続税対策のためにアパート経営を始めたということが挙げられます。
平成27年1月1日に相続税法の改正がされ、相続税を支払う人が増えました。
改正前では国民全体の4%程度の資産家だけが課税対象になっていたのですが、改正後では6%〜7%の方が課税対象になりました。
これには相続税の「基礎控除額」が大きく関わっています。
改正前の控除額の規定では「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」でしたが改正後には「3,000万円+法定相続人の数×600万円」となりました。
例えば、法定相続人が妻と子供2人のケースでは「5,000万円+法定相続人3人(妻+子2人)×1,000万円」で相続税改正前の基礎控除額は8,000万円です。
つまり8,000万円以上の資産を所有している方が課税対象になります。
改正後では「3,000万円+法定相続人3人(妻+子2人)×600万円」で控除額が4,800万円となるため、課税対象者が大幅に増えたのです。
アパート経営が相続税対策になる?
不動産の評価額は同じ価値の現金よりも安く計算されますので、アパート経営は相続税対策になります。
アパートのような他人に貸す不動産の場合、所有者個人が自由に使用できないという権利が制限されているため、その資産は評価額が落ちるというルールがあるのです。
アパートでは土地と建物で別れており、土地は「貸家建付地評価」、建物の場合は「借家権割合による評価減」という評価減を受けるのです。
また土地の場合は相続税路線価で評価されるため、時価相当とされている地価公示価格の約80%程度に設定されているのです。
建物は固定資産税評価額で評価されます。
さらに、アパート建築をした際に銀行からの借入金がある場合は、その借入金の分だけ相続税財産が減額されます。
アパート経営を始めると相続税対策に繋がることに加え、家賃という安定した収入が毎月入ってくるという大きなメリットがあります。
つまりアパート経営は相続税対策においては非常に有効的な方法と言えるのです。
そのため、近年では「儲かる」という観点よりも「相続税対策になる」という観点からアパート経営を始める人が増えているのです。
また最近では少額の自己資金で始められたり、低金利の影響で銀行からの借り入れもしやすくなっていることも、アパート経営者増加の背景にあります。
実際にアパート経営を始めるにあたっての費用や収入について見ていきましょう。
アパート経営にかかる費用とは?
(1)最低限の自己資金
アパート経営を始める際の自己資金は、物件の積算評価と収益性による担保価値で大きく異なります。
物件の担保価値が融資額よりも高い場合は、フルローンや諸費用まで含めたオーバーローンも可能となるでしょう。
しかし、不動産取得税・火災保険料・登記費用などの諸費用も考慮すると、建築・購入費用の約3割程は自己資金が必要になるでしょう。
例えば1,000万円の案件の場合は300万円程度、3,000万円の案件の場合は900万円程の自己資金を用意しておく必要があると言えます。
中にはあえて自己資金を使わずに物件を購入する人もいます。
これは家賃収入から必要経費(返済額や管理費用等)などを差し引いても余裕がある収益性が高い物件をフルローンで購入するケースなどです。
物件が老巧化した場合の修繕工事や不足の自体が生じた場合でも手持ちの自己資金で対応が可能となるでしょう。
他にも積算評価の高い物件で収益性があまり高くないような物件に投資の意義を見出だした場合は、あえて自己資金を多くして毎月の返済額を少なくするケースもあります。
一方、自己資金がほとんどない場合は選択の余地が狭くなります。
担保価値や収益性の変動の可能性を考えることなく、不動産会社側の思惑通りに購入させられてしまうケースがあるため注意が必要です。
(2)銀行からの融資額について
融資金額は金融機関が「これだけの金額なら安心できるだろう」と考える金額で、物件の担保価値と借主の総合的な信用度合いで決定されます。
融資側の立場からすると、きちんと返済してくれる信用の高い人であり、さらに物件の担保価値が高ければ融資するリスクは低いと判断し、大きな金額を低金利で融資できます。
一方、同じ物件でも借主の信用度が低い場合は、融資するリスクが高くなるため、融資できる金額は減りリスクに見合う金利が上乗せされます。
では、気になる借主の信用度合いはどこで判断されるのでしょうか。
主には下記の3つです。
- 年収
- 勤務先
- 自己資金
「年収」は勤務先と合わせて判断されますが基本的には高いほど、信頼も高いと言えます。
「勤務先」は上場企業のサラリーマンや公務員など安定した職業になるほど信用度は高まります。
「自己資金」が多ければ借主のアパート経営の堅実性を裏付けるとともに、貸し手側からすると「保険」にもなると考えます。
最近では「自己資金少額でもアパート経営できる」と謳っている業者も多いですが、堅実なアパート経営をするには、ある程度の自己資金が必要になるのです。
アパート経営の収入や利回りについて
次にアパート経営の収入についてです。
実は収入は物件の所在地や間取りなどで異なるため一概には言えないのですが、東京都心の物件であれば8万円〜15万円程度は見込めるでしょう。
物件の間取りが2DK以上の広いタイプで人気立地の物件であればさらに高い家賃収入を得ることができます。
仮に総戸数10戸の一棟アパートで、1部屋の家賃が10万円の場合だと満室で月に100万円、年間で1,200万円の収入が入ってきます。
しかしアパート経営では毎月の管理費や修繕費などの経費がかかるため、家賃収入からランニングの経費を差し引いた額が実際の収入になります。
また、アパート経営には大事な利回りがあります。
「利回り」とは簡単に説明すると支出に対する利益の割合のことです。
アパート経営においての利回りは「表面利回り」と「実質利回り」の2つに分けられます。
当然利回りが高いほど利益(家賃収入)が高いことを表しているのですが、利回りだけを重視して物件を購入してしまうと失敗に繋がる可能性があります。
アパート経営の収入や利回りについては下記の記事も参考にしてください。
アパート経営で気をつけるポイント
(1)利益とキャッシュフロー
実は最近では郊外にアパートを所有しているオーナーはほとんど手残りを得ていません。
手残りとはキャッシュフローを指します。
「儲かる・儲からない」という観点では「会計上の利益」と「キャッシュフロー」の2種類があることを知っておきましょう。
会計上の利益とは、家賃収入から諸経費を引いた利益のことであり、ほとんどのアパート経営では会計上の利益はプラス収支となっています。
つまり、アパート経営は儲かると捉えることができます。
しかし、利益が出れば利益に対しての税金が発生しますので、法人の場合は法人税、個人の場合は所得税がかかることに加え、税引後の利益から銀行に対して借入金の返済を行う必要があります。
(2)キャッシュフローを重要視
会計上の利益がプラスになっていたとしても、実際の手残りがなければ元も子もありません。
借入金の返済までを含めたお金の流れのことをキャッシュフローと言います。
キャッシュフローが悪くなっている背景には、建築費の高騰があります。
建築費の高騰により、物件価格が上がることで借入金が増えているのです。
この借入金の元本返済は会計上の費用にはなりません。
そのため、借入金の返済が多くても節税にはならないのです。
借入金の返済は税引後の利益から行うので、多額の借入金をするほどキャッシュフローが悪くなってしまいます。
(3)自己資金を持っている人は上手くいっている
借入金が多い方のキャッシュフローが悪くなっている一方、豊富な自己資金がある方や100%自己資金でアパート経営を行なっている人は上手くいっているケースが多々あります。
先述したように自己資金が多ければ、金融機関からの借り入れ条件が良くなる傾向にあります。
借入金の金利が安ければそれだけキャッシュフローが良くなることに加え、不足な事態にも対応できるため堅実なアパート経営を行なっている傾向にあります。
アパート経営に失敗する人の特徴
アパート経営で失敗する原因は様々ですが「立地」、「入居者ニーズ」、「家賃設定」を間違えると失敗に繋がる可能性が高くなります。
「アパート経営失敗」の定義は曖昧で人それぞれ違うでしょう。私は入居者が付かず、家賃収入が得られないことでキャッシュフローが上手く回らないことだと考えます。
家賃収入を得る目的で始めたアパート経営で入居者が付かなければこれ以上苦しいことはないでしょう。
そのため入居者が好むような物件を選ぶことが重要でありそのためにはある程度の知識が必要です。
また、不動産会社が勧める物件をそのまま購入してしまうことも非常に危険です。
知識が無い状態で不動産会社から話を聞いていると、言動全てがいかにも正しいように聞こえてくるものです。
一部では買い手のことは一切考えず、売って終わりの業者もいます。
後になって「買って後悔した」とならないためにも、不動産投資についての書籍に目を通したり、セミナーに参加して情報を集め知識を付けていくことがアパート経営を成功させる秘訣です。
アパート経営は会社選びが重要
アパート経営に失敗する人の特徴を先述しましたが、中でも知識が全くない方が信頼できない不動産会社に勧められるがまま、購入しているケースが目立ちます。
そのため自分なりに知識を付けていくことが大事です。
アパート経営について勉強するためにはまず、資料請求から始めることがおすすめです。
アパート経営は知識を付けてから始めましょう
アパート経営者が増加している理由や実際に始める場合のポイントについて、お分かりいただけたでしょうか。
一般的には株やFXなどの投資と比べるとリスクが低く、安定した収入が手に入ると言われているアパート経営ですが、何も知識がない状態で取り組むことは非常に注意が必要です。
今の日本では特に地方の人口減少が顕著な為、立地選びには慎重になりましょう。
また、相続税対策や節税目的だけで物件を購入・建築することもおすすめできません。
入居者からニーズのある立地で安定した収入が見込めることを一番に考えることが大事です。
入居者のニーズについてはエリアによって様々である為、不動産のプロからのアドバイスが必要になります。
そのため信頼できる不動産会社を見つけることが重要です。
不動産投資についての書籍を読んだり投資についてのセミナーに通い、ある程度の知識を付け、不動産会社とも話ができるほどになることで堅実なアパート経営を行うことができるでしょう。
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